楽しい旅にも必ず「おわり」は来てしまいます。
できれば時間が止まってほしい、そんな風に感じるものですよね。
それでも、その地で出会った人々、同じ時間を共にした仲間、島に生きる動物や植物に別れを告げ、時間になれば帰りの船に乗り込まなければなりません。
当然訪れる別れの時ですが、小笠原には名物になっている感動のパフォーマンスがあるのをご存知ですか?
テレビでも取り上げられる小笠原流の「お見送り」とは
世界自然遺産に登録されて以来、小笠原がテレビなどのメディアに登場する回数が劇的に増えました。
ドルフィンスイムやホエールウォッチングの光景、固有種の動植物などとともに名物として紹介されるのが、小笠原ならではの「お見送り」です。
一体、どんなパフォーマンスでお見送りがされているのでしょうか。
父島のお見送り風景は全員総出のお祭り騒ぎ!
映画やドラマなどで、田舎の離島から上京する島民を見送る風景を見たことはないでしょうか?
船に乗った見送られる人と、港から見送る人がカラフルな紙テーブを握り、汽笛とともにいよいよ出帆のとき・・・という涙なしでは見ることができない、あの光景です!
小笠原では旅立つ島民のみならず、観光客の人もお仕事の人も、おがさわら丸に乗っている人全員をお見送りしています。
しかしながら、よくある光景とはその規模が違います。
出港までの間は二見港に停泊中のおがさわら丸の目の前で、南洋踊りや小笠原太鼓などの郷土芸能でのお見送りが目に飛び込んできます。
そして出港すると陸地からお見送りするだけでなく、何隻ものボートが並走してのお見送りなのです。
もちろん、見送る側も島民だけではありません。
観光客も一緒になって、東京に向かう船を見送ります。
並走する見送り船による盛大な「お見送りダイブ」
おがさわら丸が出港すると、後を追いかけるように何隻も何隻も港を出港するボートが見られます。
これらは、おもにダイビングやドルフィンスイムなどをおこなっているボートたちです。
そうです、滞在中にお世話になり楽しい思い出をいっぱい作ってくれた船です。
父島周りの海を案内してくれた船長やスタッフの人たち、まだ島に残る一緒に遊んだ仲間、そして島の人・・・
よく探すと、たくさんの知っている顔にきっと気づくことでしょう。
二見湾の中をしばらく並走していると、あるところから「お見送りダイブ」ははじまります。
順々に、ボートから海に飛び込む人々!!
ボートの後ろから、前から、さらには2階部分から!
勢いよく次々と海にダイブしていき、中にはバク転宙返りをしたり、高飛び込みさながらの美しいフォームで着水する人も。
一瞬たりとも目が離せません。
この熱いお見送りは、何回味わっても体の内側からとてつもなく込み上げてくる何かがあるのを感じます。
「またねー!!」と叫びつつ、時折目頭を押さえている人もよくよく見かけます。
島で過ごした日々が濃ければ濃いほど、それが涙となって溢れてしまうようです。
ビギナーをリピーターにする「お見送りダイブ」のマジック
小笠原はとてもリピーター率の高い島です。
同じ宿に泊まっている人やアクティビティで一緒になる人と話していると、意外と「毎年XX月に来ているんですよ」なんてセリフを聞くことが多かったりします。
わたしももれなく、その類のリピーターの一人です。
リピーターの多くは最低2航海(自分が乗ってきた便の船が一度東京に戻り、次の便の復路となる東京行きに乗船して帰るという期間の数え方で約13日間)以上を予定して来る人が多くいます。
もちろん「のんびり過ごしたい」「たくさんイルカと泳ぎたい」といった理由が主なのですが、その中に「お見送りダイブをしたい」という理由を持っている人もいるのです。
どうやら、あの「お見送りダイブ」を一度目の当たりにしてしまうと、次は自分も見送りたい!と思う”マジック”にかかってしまうようです。
2航海あるいは3航海で行けるのであれば、やりたいことを全部できる、仮に途中で台風が来てもまったく遊べずに帰るというリスクも回避可能、一緒に遊んだ仲間を見送って、さらにおがさわら丸出港中の静かな島も味わうことができる、といいこと尽くしです。
休みと旅費さえ確保できれば、”全部盛り”で島を満喫できますしね!
きっと一度体験してみたら、あなたも実感できると思いますよ。
気がついたときにはすでにリピーターになっているかもしれません。
「お見送りダイブ」はどうやって練習しているの?
「お見送りダイブ」は海が荒れていない限り、出港のたびに行われるパフォーマンスです。
とはいえ、走っている船からダイブの練習をすることは普段はできません。
では、一体どうやって練習しているのか疑問ですよね。
よく練習に使っている場所はどこなのか、ふたつほどご紹介いたします。
青灯台
わたしはいつも、通称「青灯(あおとう)」の防波堤で飛び込む練習をしています。
おがさわら丸が停泊しているところからわりと近くにある青灯(青灯台)は島のシンボル的な存在です。
場所もとてもわかりやすいところにあります。
実際におがさわら丸出港時に、陸からのお見送りとしても使われている場所です。
水深も結構あり、地元の子供たちの遊び場にもなっているようです。
深さがあることから、実は飛び込みだけでなく素潜りの練習場所としてもよく使っているお気に入りスポットです。
わたしの最高記録が18mなので、間違いなく20m以上の水深はあるはずです。
防波堤の上に立つと、思いのほか水面からの高さがあることがわかります。
最初は下を見てしまうと恐怖心に襲われ、足がすくんでしまうかもしれません。
でも、一旦勇気を出してジャンプ!してみると、きっと世界が違って見えてくるでしょう。
今まで怖がっていたのは何だったのだろう?と不思議にさえ思うくらい、気持ちがいいのです。
一回やってしまえば、病みつきになってしまうかもしれません。
ドルフィンスイムのツアーボート
どこのドルフィンスイムツアーでもできるわけではありませんが、わたしがお世話になっていたサービスでは自由時間に停止中のボートから飛び込みの練習をさせてもらえることがありました。
波が穏やかな場所でアンカーを降ろし、みな思い思い、自由にシュノーケリングを楽しんでいる時間です。
ボートの片側一面を飛び込み用とし、水面に人がいない状態にするなど安全面を確保した上で、お見送りダイブの練習をさせてくれていました。
船の2階部分から飛び込む場合は、柵を乗り越えたり少々危険が伴います。
その予行練習として使わせてもらっていました。
青灯は広々としているので飛び込みやすいのですが、こちらは狭く、足場も不安定なので難易度が一気にあがります。
ある程度、水に慣れていないとボートの2階部分からの飛び込みは難しいかもしれません。
少数ではありますが、お見送りダイブで怪我をしてしまう人もいます。
飛び込みに慣れているリピーターでも一歩間違えると足を切ってしまったり、島の診療所にお世話にならざるを得ないほどの怪我を負った知り合いもいました。
怖いと感じる場合は、無理をせずボートの舳先や後方部からの飛び込みにしたほうが良いでしょう。
そこまで高さもないので、えいやー!という勢いで飛び込めると思います。
また、不安な場合はライフジャケットを着用すれば安心ですよ。
飛び込むときは、何も装着せずに体ひとつで跳び込むことをおすすめします。
怖いのでついマスクなどを着けがちですが、衝撃ではずれて逆にパニックになりかねません。
フィンも抵抗が発生しはずれてしまうか、足をひねったりする可能性がありますのでご注意を。
お願い!!「さようなら」とは言わないで
別れの挨拶といったら、やっぱり「さようなら」が普通ですよね。
でも、小笠原での別れは「別れ」なのではなく「帰島」が前提。
だから、挨拶は「いってらっしゃい」「いってきます」なのです。
島民なら当たり前かもしれませんが、これもお見送り同様、誰にでもなのだから驚きです。
”また来てね”というより、”またいつでも帰ってきてね”と言われている感じがして、なんともジーンときますよね。
これだからこそ、一度島に渡った人は、その時期になると自然に帰りたくなってしまうのでしょう。
恥ずかしがりで臆病なわたしでも、この時ばかりは大声で「いってきまーす!」と涙ながらに叫んでいます。
これを胸に、”また一年頑張ろう!そして絶対帰ってくるぞ!”と強く心に誓うのです。
もしかしたら、どんなアクティビティや景色より、こういった人と人とのつながりこそがリピーターを魅了しているのかもしれませんね。
小笠原流「お見送り」まとめ
非日常の楽しい日々を過ごした最後に受ける、温かいお見送り。
見送る方も、見送られる方も、みんなが心あたたまりますよね。
どうしても殺伐としてしまう都会での生活から少し離れ、こういう空気に触れてみるとまた少し人が好きになれるかもしれません。
まずは見送られ、次の機会には仲間を見送ってみるという両方の立場をぜひ味わっていただけたらと思います。